風邪のひきはじめに効く漢方薬といえば、まずいちばんに葛根湯を思い浮かべる方も多いでしょう。市販薬の中には①葛根湯などの漢方薬のみの商品と②熱やのどの痛み、せきなどの風邪の様々な症状に効く風邪薬(総合感冒薬)+漢方薬や生薬の商品の2つに大きく分かれます。今回は総合感冒薬+漢方薬の商品にスポットを当て、症状にあわせた商品の選択ができるよう現役薬剤師が紹介します。
薬剤師からのポイント
つらい症状に合わせて選べる
市販薬(OTC医薬品)として販売されている風邪薬(総合感冒薬)では、ある症状に特化したものというよりも、熱やのどの痛み、鼻水、咳などの風邪症状全般に効果のあるものが多いです。
しかし、市販薬では特につらい症状を改善するために、漢方薬や生薬をプラスした風邪薬が販売されています。そのつらい症状に合う漢方薬や生薬を知っておくことで、風邪をひいてドラッグストアや薬局に行った際、迷わずにそれらが配合された商品を選ぶことができるでしょう。
どの漢方薬や生薬がどのような風邪症状に効果があるのか後ほど出てきます。ぜひご参考ください。
鼻水を抑える抗ヒスタミン成分は眠くなりやすい
鼻水などのアレルギー症状を抑える効果を持つ抗ヒスタミン薬ですが、眠くなりやすいという特徴があります。
d-クロルフェニラミンマレイン酸塩などの古くからある第1世代抗ヒスタミン薬は副作用の一つで強い眠気が挙げられます。
また、抗ヒスタミン薬の副作用は眠気だけではなく、口の渇き、尿閉(尿が出づらくなること)、便秘、眼圧上昇などがあり、前立腺肥大症や緑内障の人は基本的に使えません。市販薬購入時にも、持病があれば必ず薬剤師または登録販売者に伝えておきましょう。
風邪薬に用いられる代表漢方・生薬
今回注目する市販薬(OTC医薬品)の中の「風邪薬(総合感冒薬)+漢方薬・生薬」に含まれている漢方薬・生薬は、特につらい風邪症状を緩和する目的で風邪薬にプラスして配合されています。
では、代表的な漢方薬・生薬とその働きについてみていきましょう。
代表的な漢方
風邪症状があるときに使われる代表的な漢方薬を2つ紹介します。
葛根湯
まず1つ目は、有名な『葛根湯(カッコントウ)』です。
葛根湯といえば風邪のひきはじめに服用するイメージですが、実は葛根湯が特に合う症状が「首筋~肩や背中のこり」があり「汗*² をかいていない(無汗〔むかん〕である)」ことです。
葛根湯には身体を温め、発汗をうながすことで、解熱を助けるはたらきがあります。そのため、すでに汗をかいているような風邪のときには別の漢方薬が適切になります。
*² 汗といっても、スポーツ時にかくようなサラサラした流れ出るような汗ではなく、じっとりとまとわりつくような汗(自汗〔じかん〕)を指します。
構成生薬として、下記の7種があります。
カッコンは主薬(主成分となる生薬)として働きます。
ショウキョウ・タイソウ・カンゾウの組み合わせは、他の生薬との調和をしてくれることで有名です。
小青竜湯
2つ目は『小青竜湯(ショウセイリュウトウ)』です。
水っぱな、咳、くしゃみ、うすい透明な痰などがみられる風邪に有効といわれています。
鼻水で有名な漢方薬なので、アレルギー性鼻炎や花粉症のときに用いることも多い漢方薬です。
東洋医学では、鼻風邪はからだが冷え、水分をうまくさばくことができなくなることが原因といわれています。小青竜湯は、からだを温め、水分代謝をよくする漢方薬です。
構成生薬として、下記の8種があります。小青竜湯の主薬は、マオウ(麻黄)です。
*³ カンキョウ(乾姜):ショウキョウ(生姜)を乾燥させたもの
*⁴ 過剰な水分は外に出し、必要な水分は体内に溜める効果があります。
漢方薬は、服用する人の体質や体力、体格などを考慮した証(しょう)に基づいて決められます。
今回挙げた漢方薬は、どちらもある程度体力が充実している人向けです。虚弱体質の人には漢方薬の強さが勝ってしまい、逆にぐったりしてしまう、症状を悪化させてしまうなどということもあります。購入時に、薬剤師や登録販売者に相談しましょう。
代表的な生薬
漢方薬は、それぞれ2種類から多いもので15種類近くの生薬から成り立っています。
生薬ひとつひとつにも効果があり、ここでは風邪薬によく用いられる生薬を4つ紹介します。
ショウキョウ(生姜)・ケイヒ(桂皮)
簡単にいえば、ショウキョウはショウガ、ケイヒはシナモンのことです。
ショウキョウは発汗解表(身体をあたためて汗を出すこと)・解毒作用、
ケイヒは発汗・解熱・鎮痛作用があります。
カンゾウ(甘草)・キキョウ(桔梗)
カンゾウはリコリス、キキョウはお花の桔梗のことです。
カンゾウ・キキョウともに去痰、鎮咳作用があります。
漢方が含まれる市販の風邪薬
今回は漢方薬では葛根湯・小青竜湯、生薬ではショウキョウ・ケイヒ・カンゾウ・キキョウが風邪薬(総合感冒薬)と一緒に配合されている市販薬についてまとめました。
※各々の市販薬の用法・用量などの詳細は、各項目の下のメーカーHPをご参照ください。
葛根湯が含まれる風邪薬
新エスタック顆粒(指定第2類医薬品)・・・発汗、悪寒に
風邪のひきはじめによく用いられる葛根湯に、のどの痛みやせき、痰の症状に使用されるキキョウ(桔梗)を加えた「葛根湯加桔梗」を配合しています。
解熱鎮痛剤にはアセトアミノフェンを配合しています。
コフト顆粒(指定第2類医薬品)・・・発熱のある風邪に
漢方薬(葛根湯)と総合感冒薬の2つを1つにした商品です。
発熱で失われやすいビタミンCがレモン25個分(成人1日量500mg)が配合されています。
プレコールエース顆粒(指定第2類医薬品)
葛根湯とアセトアミノフェンにより、風邪のひきはじめの諸症状(発熱、悪寒、頭痛、関節痛など)に効果を発揮します。
発熱で失われやすいビタミンB2とビタミンCが配合されています。
小青竜湯が含まれる風邪薬
ストナデイタイム(指定第2類医薬品)・・・鼻水、痰のからむせきに
鼻水やせきに効果のある小青竜湯が配合されており、抗ヒスタミン薬を使用していません。
※10包、16包入れは製造中止、在庫がなくなり次第販売終了。12包入りのみ
ストナデイタイム | 製品検索 | 薬と健康を見つめる製薬会社 佐藤製薬株式会社
※10包、16包入れは製造中止、在庫がなくなり次第販売終了。12包入りのみ
ショウキョウ(生姜)・ケイヒ(桂皮)が含まれる風邪薬
【ショウキョウが含まれる風邪薬】
ルルアタック FXa(指定第2類医薬品)・・・発熱・さむけに特化した商品
2種類の解熱鎮痛成分アセトアミノフェンとイソプロピルアンチピリンに、体を温め発汗させることで解熱させる生薬のショウキョウ、また発熱時失われやすいビタミンC(アスコルビン酸)を主な成分とした発熱・さむけにフォーカスを当てたOTC医薬品です。
ルルアタックFXa:製品情報|風邪(風邪)にルル|第一三共ヘルスケア
【ショウキョウ・ケイヒが含まれる風邪薬】
改源(指定第2類医薬品)・・・眠気が出にくい風邪薬
風神さんのキャラクターで知られる改源ですが、粉末タイプ、錠剤タイプ、カプセルタイプの3種類があります。
自己治癒力を引き出す生薬の組み合わせとして、カンゾウ・ショウキョウ・ケイヒが配合されているほか、西洋薬とのW処方で風邪症状を早く治めます。
なお、抗ヒスタミン薬などの眠くなりやすい成分は入っていません。
カンゾウ(甘草)やキキョウ(桔梗)が含まれる風邪薬
プレコールCR持続性錠,プレコール持続性カプセル
のどや鼻の粘膜の炎症を鎮めるためカンゾウエキス末が配合されています。
体内で効くタイミングが異なる2層からなり(即効と持続)、1日2回の服用で済む持続性の風邪薬です。
7種の有効成分がそれぞれの症状に働き、風邪の11症状に効果をあらわします。
新ジキニン顆粒(指定第2類医薬品)・・・つらいせき、たんに
カンゾウの抗炎症・鎮咳・去痰作用の他に、カンゾウの甘味が薬を飲みやすくしています。
ジヒドロコデインリン酸塩とdl-メチルエフェドリン塩酸塩の配合により、カンゾウと共にすぐれたな鎮咳・去痰作用が期待できます。
パブロンメディカルC(指定第2類医薬品)・・・つらいせきに
生薬はキキョウとオウヒ(桜皮)の2種類が含まれ、グアイフェネシンと共に痰のからむせきに効果が期待されます。痰を出しやすくし、気道粘膜をうるおす作用があります。
鎮咳成分ジヒドロコデインリン酸塩とともにすぐれたせきを鎮める効果が期待できます。
症状にあわせて商品を選ぼう
漢方薬や生薬の特性に合わせて、風邪のどのような症状に合うか考え、風邪薬を選びましょう。
風邪のひき始めや発熱には
葛根湯が配合されている風邪薬がおすすめです。
今回紹介した中では、以下の3商品にあたります。
・新エスタック顆粒
・コフト顆粒
・プレコールエース顆粒
鼻水がつらいけど眠気が心配な人には
鼻水に効果が期待されることで有名な小青竜湯を含む風邪薬がおすすめです。今回紹介した
・ストナデイタイム
は眠くなりやすい成分の抗ヒスタミン薬が入っていません*⁵。
*⁵ ただし、咳止めのジヒドロコデインリン酸塩によって眠気が出る恐れがあります。
つらいノドの痛みやせきには
のど風邪に効果が期待されるカンゾウやキキョウが配合されている風邪薬がおすすめです。
【カンゾウが含まれる風邪薬】
・プレコール持続性カプセル
・プレコールCR持続性錠
・新ジキニン顆粒
【キキョウが含まれる風邪薬】
・パブロンメディカルC
漢方成分と服用する際の注意点
漢方薬とはいえ、副作用がゼロではない
よく「漢方薬は自然のものを使っているから、副作用がなくて安心」という方がいます。しかし、漢方薬とはいえども薬です。わたしたち人間にとっては異物になるので、副作用がゼロというわけではありません。
例えば、葛根湯と小青竜湯のどちらにも含まれる『マオウ(麻黄)』は、交感神経を活発にする効果があります。そのため、不眠・血圧上昇・発汗過多・排尿障害などが起こる可能性が考えられます。
他に漢方薬を使用中の人は成分の重複に注意
他に漢方薬を服用している場合、入っている生薬の重複に注意が必要です。
例えば、病院で生理痛による腹痛や足のつり(こむらがえり)などの症状で処方の多い『芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)』という漢方薬を常用しているとしましょう。
風邪薬にもカンゾウが入っていたならば、カンゾウの摂りすぎにより、筋肉の組織が壊れてしまう横紋筋融解症という副作用が出やすくなります。横紋筋融解症が悪化すると、腎臓に障害が出たり、低カリウム血症により心臓に不整脈などの心疾患があられることもあり気をつけなければいけません。特に、芍薬甘草湯はカンゾウの量が多いので、他の漢方薬を併用する際には注意が必要です。ただし、カンゾウは他の生薬との調和をすることもあり、多くの漢方薬に含まれています。
まとめ
今回は市販されている漢方薬・生薬を配合した風邪薬(総合感冒薬)について解説しました。
ここで紹介した漢方薬や生薬はごく一部です。
ぜひ自分に合う風邪薬を探し、風邪のひきはじめに服用できるような商品は常備しておくこともいいでしょう。
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漢方『小青竜湯』の特徴
龍角散の特徴
参考資料
風邪 : 悩み別漢方 | 漢方について | ツムラ
https://www.tsumura.co.jp/kampo/nayami/kaze01.html
風邪の症状に合わせた漢方薬の使い分け!寒気、鼻水、のどの痛み、肩こり、節々の痛み…はどの漢方薬?|KampofulLife by Kracie
https://www.kracie.co.jp/kampo/kampofullife/body/?p=2694
風邪(風邪)のひきはじめに力を発揮する葛根湯 | クラシエの漢方 風邪シリーズ
https://www.kracie.co.jp/ph/k-kampo/hikihajime_no_hikihajime/kakkontou.html
小青竜湯[鼻水] | クラシエの漢方 かぜシリーズ
https://www.kracie.co.jp/ph/k-kampo/teach/detail_2.html
木村孟淳,御影雅幸,劉 園英:中国医学 医・薬学で漢方を学ぶ人のために,2005年11月25日発行,南江堂
葛根湯)p.112,113,134
小青竜湯)p113
桂皮のワザ:ケロリンファン倶楽部|富山めぐみ製薬
https://www.kerorin.com/fanclub/keihi.html
発熱・悪寒には、新エスタック顆粒 製品情報|エスエス製薬
https://www.ssp.co.jp/product/all/stac/
コフト顆粒|患者さま・ご家族の皆さま|日本臓器製薬
https://www.nippon-zoki.co.jp/general/kofuto-karyu.html
プレコールエース顆粒|第一三共ヘルスケア
https://www.daiichisankyo-hc.co.jp/products/details/precol_ace/
ルルアタックFXa:製品情報|風邪(かぜ)にルル|第一三共ヘルスケア
https://www.daiichisankyo-hc.co.jp/site_lulu/lulu-attack/fxa/
ストナデイタイム | 製品検索 | 薬と健康を見つめる製薬会社 佐藤製薬株式会社
https://search.sato-seiyaku.co.jp/pub/product/2058/
改源|カイゲンファーマ株式会社
https://kaigen.jp/
プレコール持続性カプセル|第一三共ヘルスケア
https://www.daiichisankyo-hc.co.jp/products/details/precol_cup/
プレコールCR持続性錠|第一三共ヘルスケア
https://www.daiichisankyo-hc.co.jp/products/details/precol_cr_tab/
新ジキニン顆粒 | 製品のご案内 | 全薬工業株式会社
https://www.zenyaku.co.jp/product/detail/d.html
パブロンメディカルC| 製品詳細|大正製薬
https://www.catalog-taisho.com/05373.php
月経困難症・月経痛 : 悩み別漢方 | 漢方について | ツムラ
https://www.tsumura.co.jp/kampo/nayami/gekkeikonnan01.html
生薬ファイル | 漢方セラピー|クラシエ
https://www.kracie.co.jp/ph/k-therapy/shoyaku-file/?_ga=2.11632189.869252010.1642196723-431413433.1642196723
執筆者 / ファクトチェック / 監修者
Yuki Ohkoshi
調剤併設ドラッグストアや調剤薬局にて15年以上保険薬剤師として勤務。患者様の心に寄り添う投薬を心掛けています。
また、医療・薬や育児に関する記事を中心に執筆しています。恐竜大好きわんぱく男の子を育てる未婚のシングルマザーで育児奮闘中。
Yosuke Fukuoka
【薬剤師】ドラッグストア薬剤師を4年間経験。その後、本社教育部門にて市販薬セミナーの講師を務める。広告やパッケージに惑わされないお薬選びのコツを「わかりやすく」伝えられるよう、日々の執筆を行っています。