市販の風邪薬は副作用がないと思っている方も多いのではないでしょうか。決してそんなことはなく、軽いものからごくまれに重篤な副作用が起こることもあります。今回は副作用を回避するために、自分でできることを現役薬剤師が解説します。
薬剤師からの3つのポイント
市販の風邪薬はたくさんの種類があり、選ぼうとすると迷ってしまうことはありませんか。ここでは、風邪薬を購入する際に選ぶポイントを解説します。
眠気など成分特有の副作用は覚えておく
風邪薬でいちばん感じやすい副作用は眠気ではないでしょうか。しかし、個人差があるので、どの成分で眠気を感じるのかを把握し、その成分が配合された風邪薬を控えるようにしましょう。
【眠気を感じやすい代表成分】
喘息の人は成分をよく確認する
喘息の既往歴がある人は、解熱鎮痛成分に注意が必要です。
アスピリンおよび酸性のNSAIDs(イブプロフェンなど)により、喘息を誘発する可能性があり、服用には注意が必要です。
まれに重篤な副作用が現れることも忘れない
市販薬の風邪薬とはいえ、命の危険に迫るような重大な副作用が起こらないとはいえません。頻度は極めて低いですが、重篤な副作用が起こる可能性があることを忘れないようにしましょう。
風邪薬の副作用とは
風邪薬は発熱やのどの痛み、鼻水、せきなどさまざまな風邪症状に対応するため、何種類もの有効成分が配合されています。そして、それぞれの有効成分には特有の副作用があります。
では、実際にどのような症状がみられる可能性があるのでしょう。
成分ごとの主な副作用
ここでは、風邪薬に使われる成分ごとに、起こりうる副作用について解説します。
代表的な鎮痛・解熱成分
成分 | ロキソプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs) |
副作用 | 胃腸障害(胃部不快感、食欲不振、胸やけ、胃痛、悪心)・・・空腹時の服用は避けましょう。 皮膚症状(発疹、かゆみ)・・・服用は中止してください。今後、同じ成分が入った医薬品は避けてください。 |
成分 | アセトアミノフェン |
副作用 | 肝障害(体のだるさ、発熱、食欲不振)・・・服用は中止してください。 |
代表的な抗ヒスタミン成分(抗アレルギー薬)
第一世代抗ヒスタミン薬
ジフェンヒドラミン塩酸塩、クロルフェニラミンマレイン酸塩、クレマスチンフマル酸塩
第二世代抗ヒスタミン薬
ケトチフェンフマル酸塩、メキタジン
副作用の症状には眠気や口の渇き、便秘、悪心・嘔吐、排尿障害などがあります。
一般的に、第一世代の方が眠気が強いといわれているため、眠気が出やすい人は第二世代を選ぶことをおすすめします。ただし、個人差があるので、一概にはいえません。
抗ヒスタミン薬は抗コリン作用を持つため、前立腺肥大・緑内障の人は症状が悪化する恐れがあるため、服用は避けましょう。また、高齢者は注意が必要です。
代表的な鎮咳・去痰成分
コデインリン酸塩
ジヒドロコデインリン酸塩
副作用には呼吸抑制(特に新生児、小児は影響を受けやすいため、服用は避けましょう)や排尿障害(前立腺肥大の人は悪化するおそれがあるため、服用は避けましょう)、悪心・嘔吐(服用は避けましょう)などがあります。
なお、気管支喘息の発作には使うことはできません。
代表的な漢方成分
植物や動物を用いているため、安全と思われがちですが、漢方で使われる成分(生薬)の中にも注意が必要なものがあります。
カンゾウ(甘草)
偽アルドステロン症(浮腫、体重増加、血圧上昇、低カリウム血症など)の原因となり得ることがあります(カンゾウに含まれるグリチルリチンによるもの)
マオウ(麻黄)
血圧上昇・動悸・心拍数増加、不眠・イライラ感・興奮作用、多汗、排尿障害
(これらは交感神経を刺激するエフェドリン作用によって起こりうる症状です)
ジオウ(地黄)
食欲低下、胃の不快感、吐気・嘔吐
ダイオウ(大黄)
腹痛、下痢
代表的な抗コリン薬
抗コリン薬に分類される成分は、鼻汁の分泌を抑制することを目的として配合されることがあります。
・ヨウ化イソプロパミド
・ベラドンナエキス
便秘や口渇、排尿障害、緑内障悪化、目の調節障害(目のかすみ、異常なまぶしさ)などがあります。
頻度は低いが重篤な副作用
頻度は極めて低いですが、ときに命の危険も考えられるような重篤な副作用が起こる可能性があります。今回は代表的な4症状を解説します。
アナフィラキシーショック
『アナフィラキシー』とは、「アレルゲン(アレルギーの原因物質:薬や食物など)などが体内に侵入することで、複数の臓器にアレルギー症状が引き起こされ、命の危険にさらされる過敏反応」のことをいいます。そして、「アナフィラキシーに血圧低下や意識障害を伴うこと」を、『アナフィラキシーショック』と定義しています。
『アナフィラキシー』の具体的な症状として、皮膚・粘膜症状(全身の発疹、かゆみ、赤み、くちびる・まぶたなどの腫れ)、呼吸器症状(呼吸困難)、循環器症状(血圧低下、意識障害)、持続する消化器症状(腹痛、嘔吐)
などが急速(数分後〜数時間後)に起こるとされています。
※日本アレルギー学会「アナフィラキシーガイドライン」 (p.1)総論 1 アナフィラキシーの定義と診断基準 を参照
スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)
スティーブンス・ジョンソン症候群は皮膚粘膜眼症候群とも呼ばれます。
早期の治療が必要となるため、原因となる医薬品を服用後、以下の症状があった場合、早急に医療機関を受診してください。
・38℃以上の高熱、全身倦怠感
・粘膜症状(口唇や陰部のびらん・結膜の充血・咽頭痛・排尿時や排便時の痛み)、
・眼症状(めやに・まぶたの腫れ)
原因物質として、医薬品の他にウイルスやマイコプラズマ感染も挙げられており、詳しいことはまだ解っていません。
発症は2週間以内が多いですが、数日以内~1ヵ月以上経ってから発症する場合もあります。
原因となる主な市販薬
・総合感冒薬(風邪薬)
・解熱鎮痛薬(アセトアミノフェン・ロキソプロフェン・イブプロフェン・アスピリン)
・鎮咳薬(デキストロメトルファン・ジヒドロコデインリン酸塩)
・胃薬(H2ブロッカー)(ファモチジン・シメチジン) など
中毒性表皮壊死症(TEN)
前述のスティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)が進行すると、中毒性表皮壊死症(TEN)と診断されます。中毒性表皮壊死症はライエル症候群とも呼ばれます。
診断基準はびらんや水疱により体の表皮が剥けた部分が、体表面積の10%未満の場合をSJS、10%以上をTENとしています。死亡率はSNSは3%、TENに至っては20〜40%といわれます。
TENの発症頻度は年間人口100万人当たり1.3人といわれています(厚生労働省研究班の調査による*)。
*参照:中毒性表皮壊死症(指定難病39)|難病情報センター
https://www.nanbyou.or.jp/entry/4036
肝機能障害
多くの風邪薬で含まれている解熱鎮痛剤の『アセトアミノフェン』は、肝臓で解毒(代謝・排泄)されます。しかし、長期にわたる服用や決められた量よりも多い量を服用すると、解毒能力が追い付かなくなり肝障害が起こる可能性があります。
肝機能障害は、自覚症状があるときにはかなり進行していることも多いです。
定期的に血液検査をしている人ならば、AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTPの肝機能を示す値が上がることで気づくことができるでしょう。しかし、年一回会社の健康診断しか受けない人などは下記の症状が肝機能悪化で出やすいため、いつもと体調が違うようなことがあれば服用を中止し、医療機関への受診をしてください。
・だるさや疲れやすさ、食欲不振、発熱などの風邪のような症状
・むくみ
・黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)
高齢者は加齢とともに肝機能が低下する傾向にあり、肝機能障害を起こしやすいです。また、絶食・低栄養状態・摂食障害やアルコールを多く飲む方なども肝機能障害が起こる可能性が高くなる要因の一つです。
まとめ
今回は、市販の風邪薬を服用した際に起こりうる副作用について、解説しました。
風邪が治ったら漫然と服用を続けないことを守り、服用して体調の変化を感じたら医師・薬剤師・販売登録者に相談しましょう。
こちらの記事も読まれています
ロキソプロフェンの副作用
アセトアミノフェンの副作用
風邪薬を買う前に確認すべきこと
参考資料
・伊藤明彦・中村智徳,今日のOTC薬 解説と便覧 改訂第5版.p 133,146-159q
・一般社団法人日本アレルギー学会,アナフィラキシーガイドライン.2014年11月1日第一版発行
https://anaphylaxis-guideline.jp/pdf/anaphylaxis_guideline.PDF
・スティーヴンス・ジョンソン症候群(指定難病38)|難病情報センター
https://www.nanbyou.or.jp/entry/4074
・用語辞典│NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)|SJS/TEN情報サイト
http://eye.sjs-ten.jp/dictionary
・中毒性表皮壊死症(指定難病39)|難病情報センター
https://www.nanbyou.or.jp/entry/4036
・第11回 アセトアミノフェンによる肝障害はなぜ起こるの? | 電子薬歴GooCoで薬局変革を|(株)グッドサイクルシステム
https://goodcycle.net/fukusayou-kijyo/0011/
・AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTP | 肝臓に関する検査の一覧 | 肝炎.net
https://www.kanen-net.info/kanennet/knowledge/inspection01
https://www.med.or.jp/anzen/manual/pdf/jirei_10_02.pdf
執筆者 / ファクトチェック / 監修者
Yosuke Fukuoka
【薬剤師】ドラッグストア薬剤師を4年間経験。その後、本社教育部門にて市販薬セミナーの講師を務める。広告やパッケージに惑わされないお薬選びのコツを「わかりやすく」伝えられるよう、日々の執筆を行っています。
Nobuhiro Nagao
病院薬剤師として6年勤務。主にがん領域を経験。
現在は調剤薬局にて経営者かつ薬剤師として地域の健康サポートに取り組んでいます。
また、webライターとしてOTCやセルフメディケーションについて正しい医療情報を発信し、悩みを解消できる記事作成に励んでいます。
一緒にセルフメディケーションについて知識を増やしていきましょう。